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府中


 三十数年前、俺は東京都下の府中市にある家具屋でアルバイトをしていた。店は友人Aの実家が経営していて、俺はその友人と専ら配達役だった。家具の運搬にはコツがある。箪笥などの箱物は持ち方次第で見た目より楽なのだが、座卓は別。天然木の高級品などはずっしりと重く、たちまち腰にくる。
 勤め始めて約半年後、隣のビルの三階に「競馬コンサルタント」なる看板が挙がった。当時の競馬界でちょっとした有名人でもあったMが開いた事務所だった。俺も友人も競馬・パチンコ・麻雀の毎日だったから、スポーツ紙にテレビにと引っ張りだこだったMが出入りするのを眩しく見ていた。事務所開きから半年、一年経った或る日だ。ビルの前に黒塗りの高級車が数台、急くように停車し、黒い背広上下の男たちが階段を駆け上がった。怒号が聞こえ、ドアが叩き蹴られたらしき音も伝わった。後日、Mが蒸発したのを知った。新聞記事で読んだのか、ゴシップ雑誌で見たのか、客から預かった大金を馬券で運用していたMの悲劇の顛末が書かれていた。
競馬も麻雀も二人で覚えたが、競輪は俺が先に知ってAに教えた。先生と生徒の関係は半年にも満たず、奴は俺の倍の加速で競輪に淫していった。二人でよく一泊二日の旅打ちに出かけたが、友人は平気で記念競輪三日間とか六日間(当時の記念は三日制で前節・後節通し開催なるものもけっこうあった)の遠征をするようにまでなった。Aの親父に呼び出され「いったい息子はどうなってるんだ」と嘆かれたこともある。
二人とも負けた小倉からの新幹線を想い出す。疲労困憊で乏しい所持金。当時の博多~東京は何時間かかったのだっけ。車中の苦痛と長さと苛立ちを忘れないでいる。
1988年の宮杯の帰りの車中、Aがトイレで吐いた。奴の鞄の中には井上茂徳と中野浩一で儲かった札束が入っていた。大金の興奮と疲れからなのか、Aは二度も食べものを戻した。
俺がこの仕事に就いたのをAは喜んだが、俺には敵前逃亡? に似た負い目が少しあった。あれから二十五年、俺は「安全地帯」で細々車券を買い続けている。Aのその後はここでは記さない。
先日、久方ぶりで府中の競馬場へ行った。帰りは競馬場から大國魂玉神社の裏手に抜けて商店街まで歩いた。とうの昔に家具店は廃業している。様変わりした周りの景観が俺をまごつかせ、ついきのうのことのようだったあの時代が消えてしまった気がした。

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2015年2月16日 13時08分更新
2015年1月10日 7時13分更新
2014年6月14日 13時32分更新
2014年5月5日 8時22分更新
2014年4月9日 11時11分更新
2014年3月11日 22時06分更新
2014年2月14日 20時55分更新
2014年2月9日 18時00分更新
2014年1月28日 19時35分更新
2014年1月21日 22時39分更新

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4/26~28日

優勝は児玉 碧衣(福岡)

4/20~23日

優勝は真杉  匠(栃木)

4/11~14日

優勝は阿部 将大(大分)

4/4~7日

優勝は嘉永 泰斗(熊本)

3/28~31日

優勝は山田 庸平(佐賀)