
絆

「八王子市からお越しのM様、A様が正門前でお待ちです」
「松戸市からお越しのY様、B様に至急連絡をお取りください」
ひとつレースが終って払い戻しのアナウンスが流れ、それからしばらくすると案内放送の時間だ。
携帯電話などない、ポケベルすらなかった昔の競輪場の光景である。
「竹林様、正門脇で某様がお待ちです」と松戸の記者席で聞えた。
某という名前に覚えはないが竹林姓は珍しいし俺のことかと思ったが同室の先輩に制せられた。
俺の記名で書かれた推薦車券が裏目を食っていることに触れ、「たぶん頭にきた客だよ」と。
二日家に帰っていないという友人を探すのに思案した。
スポーツ新聞のギャンブル欄を見たら弥彦記念の決勝の日だった。
俺は番号を調べ弥彦競輪場に電話した。
案内サービスに友人と俺の名前を伝え、連絡を請う旨の放送を頼んだ。
三十分もかからなかったと思う。
自宅の電話が鳴って受話器を取ると「よくここがわかったなァ」が友人の第一声だった。
俺と輪友の陳腐な絆の話です。
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